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15 juin 2008 

Lust, caution:films

李安監督の『色、戒』を観た。
日本軍占領下の1942年の上海。大学生の王佳芝は大学の友人に誘われて演劇部に入り、抗日運動を題材に扱った作品の主演をつとめる。学生たちは最初は演技であったはずが、自らの役柄に取り込まれるように、リアルな抗日運動に入っていく。演劇学生上がりの革命家が暗殺のターゲットにしたのは、傀儡政府のスパイのトップ・易。
佳芝は貿易商の夫人になりすまして、易の妻に取り入り、ついに易の愛人となるが・・・。
 当時の上海は映像で描かれているような街だったのだろう。ワンシーン、死体が転がっているシーンもあったが、きっとそうした街だったのだろう。水面下で鋭い勢力争いが行われるなか、すぐ隣に死があるような時代。ストーリーを追えば、一種のスパイものである。しかし、この作品は決して大衆的な娯楽作品ではない。人間の表面には決して出てこない激しい感情を剥き出しにした作品である。
 物議を醸したベッドシーンだが、ベッドの上はまさに男女の戦場。「政治的」駆け引きを繰り広げる戦いの場であることを如実に示す。ここには逃避的でロマンティックな馴れ合いは存在しない。女は自らの身分を偽りながら一歩も引けず、男は警戒心を緩めず相手との間合いを激しく詰めていく。やがて二人は死と背中合わせの性愛にのめり込んでいく。空想的な甘い恋ではない。崖っぷちの現実と向き合う愛である。あの激しさは必然とさえ、思える。
 この映画、佳芝と易以外にも、駆け引きの応酬に満ちている。夫人たちの麻雀のシーン然り、佳芝とその仲間の関係も然り、香港の和風料亭で中国の歌をうたうシーンも然り・・・。日本の歌が流れる料亭で、佳芝が中国の歌を唄うシーン。易に翻意を促しているのだが、易は気づいていない。
 ラスト、暗殺の絶好の機会に、佳芝が易を故意に逃す。そして、道路封鎖で足止めされた佳芝はカプセルを飲まない。彼女は「仲間」が導く死を選ぶことより、易の自分への思いに賭けたのかも知れない。彼女は自分を利用することしか考えなかったかつての仲間より、易の方に人間的な誠実さをみたのだろう。易のラストの涙は、佳芝への感情を如実に示す。最後に残ったのは、易の孤独か。あのラストは、偽ることから始まった愛の、信じることができなかった関係の、必然の帰結なのだろうか。邦題は『ラスト、コーション』。
映画は2時間40分あったのだが、全く長く感じなかった。ここ数年で観た映画では五指に入る作品だ。上映のあとに、この映画に出演していた藤木勇人さんのトークショーがあった。李監督は台詞もない役の一人ひとりに一生分のストーリーを考えていた、という主旨のことを言っていたのが印象的。