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23 août 2008 

ぐるりのこと:films

橋口亮輔監督の『ぐるりのこと』を観た。
法廷画家の金男と出版社の編集者・翔子。性格の全く異なる一組の夫婦の10年を追った作品。
 
夫の金男が友人の紹介で法廷画家になったことで、この10年間におこった社会を震撼とさせた事件の法廷場面が折々に挿入される。特に連続幼女誘拐殺人事件、池田小児童殺傷事件、お受験殺人と言われた園児殺害事件など子供が犠牲になった事件も含まれている。波乱だったのはもちろん、社会だけではない。金男と翔子の夫婦も同様である。もちろん、こうした法廷シーンには、主人公夫婦が娘を失ったのと同じ悲しみに打ちひしがれた多くの被害者家族、または加害者家族の存在を想起させる。事件の数の、何倍もの数の悲しみに打ちひしがれた人々がいることを示している。
 翔子は不完全ながらも金男との小さな幸せをかみしめて人生に踏み出したのが、娘の死後、その生活は暗転する。ぼんやりとする時間が増え、仕事を継続していくのもつらくなり、ついには心のバランスを完全に失ってしまう。そして、そんな妻を夫は彼女を支える・・・というように見えるが恐らく金男の浮気癖は治らなかったのだろう。そうしたトラブルは映像や台詞からは追いやられているが、それを含意させるカットがいくつか挿入されている(翔子の映画での第一声がそれを雄弁に物語る)。しかし、金男は翔子から逃げ出したい気持をもちながらも彼女に静かに寄り添う。金男は頼りなげでダメなところも多い男なのだが、無責任な人間ではない。それには彼の父親が自殺という形で自分の前から姿を消してしまったことと関係しているのかも知れない。そしてやがて翔子も、周囲の無責任な言葉に傷つきながらも、ゆっくりと自分を取り戻していく。
 この映画は翔子を演じる木村多恵の演技が出色であった。金男演じるリリー・フランキーは台詞回しでやや興をそぐ場面もあったが、やさおとこの佇まいが絶妙の雰囲気を醸し出していた。あれが肩幅の広い人物だったら、随分と映画の雰囲気は変わっていたに違いない。脇の人物造形や何気ない台詞の一つ一つがよく練られており、完成度が
極めて高い。なかでも翔子のキャラクターと彼女を取り巻く環境が一番リアルに、繊細に描かれていた。きっと二度、三度観ても新たな発見があるのだろう。
 翔子のうつ症状が寛解してからは、観ている方も心から幸せな気分になる。彼女の再生には絵を描くことが大きく貢献していたが、それが絵の筆致に大いに表れていた。また金男との関係においても、手を携えて乗り越えた嵐のあとの夕凪のような、人生に光明が見いだせるようなそんな演出は素晴らしい。夫婦ってとてもいいものなのかもしれないと思えるような作品だ。観客の多くは女性だったが、結婚したいと思った向きも大勢いるかも知れない。しかし往々にして「映画のような人生」はないのであるが・・・。
 この作品、きっと今年の日本の映画賞を総なめにするだろう。